自堕落な生活の中にあるもの 「苦役列車:西村 賢太」を読んだ

かかえているだけで厄介極まりない、
自身の並外れた劣等感より生じ来たるところの、
浅ましい妬みやそねみに絶えず自我を侵略されながら
この先の道行きを終点まで走ってゆくことを思えば、
貴多はこの世がひどく味気なくなって息苦しい、
一個の苦役の従事にも等しく感じられてならなかった。

個人的に、
限りある生(命)を、精一杯生きた瞬間のきらめきを書いた物語が好きだ。
そんな物語は感動を生む。

しかし、
『苦役列車』はそれとは、
まったく逆のものであると感じた。

苦役列車
苦役列車
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西村 賢太
新潮社
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芥川賞をとり、メディアで騒がれていた作品。
個人的に好きな作家である道尾秀介の
直木賞受賞を薄れさせた作品?でもあるかも。

自身の経験した事柄をもとに書く、
私小説というジャンルの小説。

父親が性犯罪を犯した劣等感で、
何事もうまくいかず、コミュニケーションもうまくとれず、
人生になんの希望も持てない。

日雇い労働で身銭を稼ぎ、
稼いだお金は次の仕事の交通費だけを残し、
酒、タバコ、風俗に使ってしまう。
そんな自堕落な生活を繰り返す主人公。

描かれている物語は、その主人公の
ただの自堕落な生活だ。

でも、それが面白い。

主人公が、人と出会い触れ合うことで、
感じる、劣等感、妬み、恨み。
先の将来を見ようとせず、今を生きることだけを
考えているからこそそれは発生するのかも知れない。

こんな風に生きたくない。

って思うし、
こんな風に生きてる人がいるのか。

って感じる。

どんな人生が幸せかなんてのはわからないけど、
読んでいて思ったのは、

先の未来を想像できる余裕のある生活を
送れるってことは、きっと幸せなことなんだなって。
先にある未来を想像して、そこに
少しでも光がさしているのを感じられるってのは、
すばらしいことなんだなって。

今を生きることだけしか考えられない、
先を予想する余裕すらない、
ただ自身の今の快楽だけを求め生きる。
そんな生き方に少なくとも自分は共感することはできない。

でも、そんな生き方も、
他人の人生のひとつとしては存在するし、
それが絶対に不幸だということでもない。

そんなことを読んでいて感じた。

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